創作童話5




メイちゃんの運動会

 今晩は、町内の猫たちの運動会です。灰色猫のメイちゃんは、近所のトラ猫のたまちゃんと一緒に、空き地へ行きました。この空き地のまわりには家があまりないので、猫たちがいくら騒いでも大丈夫なのです。この町内には、大人十匹と子供六匹がいます。全員が集まるのは、運動会とクリスマスだけ。みんなで会うのは久しぶりです。

「トムおじさん、運動会ってどんなことをするの?」
 この町に引っ越してきたばかりのたまちゃんがたずねました。
「玉転がしとかけっこ。それに、今年はダンスがあるんだ」
「ええっ、ダンスなんてやったことないよ」
「だいじょうぶ。町内会長さんが、子供たちに教えるって張り切っていたから」
「ふうん。楽しみだね」
 メイちゃんとたまちゃんはわくわくしてきました。 
 昨年はメイちゃんはまだ小さかったので、応援だけしていました。今年は、お兄さんお姉さんたちと一緒に参加することになったので、何日も前から楽しみにしていました。

「みんな集まったようなので、そろそろ始めようか!」
 町内会長の白猫のろくおじいさんが、しわがれた声で言いました。
「はーい、子供たちはこっちに集まって!」
 メイちゃんはたまちゃんと一緒に大人たちがいるドラム缶の前に行きました。他のお兄さんお姉さんたちも来ています。
「よう、メイちゃん。今年は出るのかい?」
「あ、たろさん。こんばんは。そうなの。やっと参加できることになったの」
「よかったな。おや、そっちの子もはじめてだろ?」
「こんばんは。私、たまです。先月この町に越してきました。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
「メイちゃんもたまちゃんも、がんばりましょうね」
 お姉さんたちも優しく言ってくれました。

「それじゃあ、かけっこを始めます。むこうはじの大きな木まで競争です。いいですか? よーい、ドン!」
 子供猫たちは、一斉に走り出しました。大人猫たちの歓声が上がります。
「がんばれ!」
「いいぞ!」
 あっという間に、みんなゴールに着きました。一位は三毛猫のたろさんでした。

「たろさん、おめでとう」
 一番最後についたメイちゃんは言いました。
「ありがとう。メイちゃんもがんばったじゃないか」 
「ええ、たまちゃんについていこうと思ったら、いつもより速く走れたみたい。うれしい」
「あら、私は前のお姉さんについていこうと思ったら、やっぱりいつもよりも速くなったみたいよ」
 たまちゃんもうれしそうでした。

 つぎは、玉転がしです。大人猫たちが、ボールを六個並べました。
「はい、みんな、ボールの前に行って!」
 ボールの大きさはまちまちだったので、メイちゃんはいちばん小さいピンク色のボールの前に行きました。
「いいですか? さっきの大きな木までボールを転がして行ってください。よーい、ドン!」
 メイちゃんは思いっきりボールを押しました。
「あらっ、どこにいっちゃうの?」

 ボールはゴールと違う方向に転がっていきます。メイちゃんはあわてて追いかけました。
「ようし、こんどこそ!」
 力をこめてボールを押すと、ボールはくるくると回転し、スタート地点の方へ転がっていきました。
「わーん、そっちじゃないったら!」
 メイちゃんがあせればあせるほど、ボールは思うように転がってくれません。
「あーあ、いつもたまちゃんと一緒にボール遊びをしているから、簡単だと思ったのに……」
 ほかの猫たちはみんな、ゴールの近くまで行っています。メイちゃんは、もうあきらめようと思いました。すると突然、大きな声がひびきました。

「メイちゃん、がんばれー!」
 黒猫のミミおばあさんです。
「えっ? ミミおばあさん……」


 いつも静かなミミおばあさんが、遠くから叫んでいるので、メイちゃんはびっくりしました。続けて、たまちゃん、トムおじさんの声が聞こえました。
「メイちゃん、落ち着いて!」
「メイちゃん、ファイト!」
 お姉さんたちの声もします。
「メイちゃん、がんばって!」
 そして、みんなの大合唱となりました。メイちゃんは、うれしくて涙が出てきました。
「みんなが応援してくれている……」
 メイちゃんは、そうっとボールを押してみました。今度は、ゆっくりとゴールの方へ転がっていきます。
「メイちゃん、その調子!」
「そっか、あわてないでそうっと転がすとまっすぐ行くのね」
 メイちゃんは、みんなが待っているゴールまでまっすぐに進んでいきました。
「メイちゃん、おめでとう!」
「よくやったね!」
 大歓声に、メイちゃんは元気な声で答えました。
「みんなが応援してくれたから、最後までできました。ありがとうございます!」

 みんなの心が一つになったところで、ろくおじいさんが言いました。
「さあ、これからみんなでダンスを踊ろう。いいかい、わしのまねをするんだよ。まず右手をチョイ、チョイと出して……」
 右手をチョイ、チョイ……。みんな、一斉にやってみました。
「……そして、最後に三回飛ぶんだ」
 ぴょーん、ぴょーん、ぴょーん。
「さあ、みんなで踊ろう!」
「わーい、おもしろい!」
 猫たちは、大人も子供も一緒になって、何度も何度も踊りました。

「みなさん、運動会は楽しかったかい?」
「はーい、とっても!」
「今度は、クリスマスに集まりましょう。それじゃあ、気をつけて帰るんだよ」
「はーい、おやすみなさい」


 帰り道、たまちゃんはトムおじさんと、メイちゃんはミミおばあさんと並んで歩きました。
「ミミおばあさん、応援してくれてどうもありがとう」
「ああ」
 ミミおばあさんは、いつものように静かな声でしたが、メイちゃんが見上げるとにこにこと楽しそうに微笑んでいました。メイちゃんの家の前につきました。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「ああ」
「おやすみ」
「おやすみなさい」

 みんなが帰るのを見送ると、メイちゃんは道の真ん中にまるくなりました。
「今だけ私の場所よ!」
 だれも通らない道で、メイちゃんはいろいろなことを考えました。
「今日はとっても楽しかったなあ」
「ミミおばあさんの声、大きかったなあ」
「みんなが応援してくれてうれしかったなあ」
「明日は、たまちゃんと一緒に、ミミおばあさんのところでダンスを踊ろうっと!」
 灰色猫のメイちゃんは、月明かりの中で銀色に光りながらうとうとしました。




おわり






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